「有給を取ってください」

2月28日。明日から3月に入ろうという、2月最後の休日に月島さんにお願いをした。
目的は一つ。一か月後に来たる月島さんの誕生日をお祝いするためだ。それをわかっているのだろう月島さんは、わかったと頷きつつ、渋い顔をしている。

「わざわざ休み取ってまで祝わなくたって、」
「じゃあ今年も他の人に先を越されるのを黙ってみていろと?」
「うっ」

私の訴えに月島さんは昨年のことを思い出したのだろう。苦々しい顔つきに変わった。
昨年の4月1日は散々だった。
私と月島さんは、お付き合いを始めて半年が過ぎたくらいの頃で、お互いの誕生日がいつだかを知らなかった。4月1日当日に、他の人に誕生日おめでとうと祝われているのを見て知ったのである。
当然その日は仕事が手につかなくて、せめて晩ご飯は外食をしようと提案したものの、急な仕事が舞い込んで残業になり、それも叶わず。落ち込みまくるわたしを見かねてフォローのつもりで月島さんが発した言葉がわたしにとどめを刺した。

「今更誕生日がめでたいって歳でもない。ただの平日だ、気にするな」

月島さんなりに気を遣ってくれたのだろうと思う。でも、ただでさえ気落ちしていたところに、誕生日なんてどうでもいいと取れるような言葉を投げかけられ、祝いたいという気持ちを否定された気になってしまいカッとなりそこから喧嘩に発展した。売り言葉に買い言葉でヒートアップした口論は、誕生日を祝いたかったはずなのに喧嘩をしてしまっている現実に、私が泣き崩れたところで終わりを迎えた。

「すまん、俺が無神経だった。今日じゃなくていいから、誕生日祝ってくれ」
「ぐすっ…はい」

完全に言わせた感があったがその時はそれで収めて、後日きちんとお祝いをして去年の誕生日は一件落着した。同じ轍は踏むまいと、今年はしっかり準備をすることにしたのだ。そのための有給取得だ。

「…取るのは構わんが、時期的に許可されるかわからんぞ」
「あ、それは大丈夫です。鶴見部長に話は通してあるので」

むしろ月島さんは有給取得率が悪いから喜ばれたくらいだ。どうせなら連休にすればいいと言われ、1日だけじゃなく2日も併せて休みにしたらどうだと提案された。

「なので月島さんは有給の申請だけ出してもらえばいいです」
「…わかった」

すでに根回しが済んでいることで、反論しても無駄だとわかったのだろう。月島さんは大人しく承諾してくれた。これで仕事に邪魔をされることはない。
次に考えるべきは、どうお祝いするかだ。せっかくお休みにしたのだし、どこかに出かけてもいいだろう。でも、3月は年度末で残業が多いだろうし、ゆっくりしてもらいたい気持ちもあるしどうしようか。

旅行に行く
遠出はやめておく