高校三年生の時からお付き合いをしている彼とは、早いもので今年で七年の付き合いになる。誕生日、クリスマス、付き合った記念日に、はたまた卒業祝いや就職祝い、エトセトラ。付き合っている期間が長いとプレゼント選びはそれなりに苦労する。
サプライズはすでに何度かしているし、同棲しているから手料理も毎日振る舞っている。彼は装飾品をあまり好まない方だから、余計に選択肢が限られた。学生の頃はスポーツをしていたので、タオルやTシャツをあげることもできたが、もともと彼はそこまで物欲のある方でもないし、社会人となった今は欲しいものは大抵自分で買えてしまうので、ますますあげるものに困るようになった。
欲しいものはないか、と率直に訪ねてみたが、お前からもらえるんならなんだって嬉しい、となんとも参考にならない返答をいただく始末。彼の誕生日は来週に迫っている。そんなに気を張らなくてもいい、祝ってくれるだけで十分だとも言われたが、彼のことが好きだからこそ喜んでもらえるものをプレゼントしたいと思うのだ。

誕生日当日は仕事終わりに外食に行こうか、と提案したが、週明けの月曜だし、お前の作った料理が食いたいと言われて、家での食事となった。それでも普段よりは手の込んだものにしようと、前日にあらかじめ仕込んでおいたので、食卓は豪勢になった。好物の揚げ出し豆腐はもちろん用意した。お店で食べるものよりも、お前の作ったのが一番おいしいと言ってくれる彼が好きだ。
ささやかながらケーキも用意して、少し恥ずかしそうにしながらもろうそくを吹き消した彼に用意したプレゼントを手渡す。
悩みに悩んで、腕時計をプレゼントすることにした。彼が普段使っているものはスポーティーなデザインで、スーツに合わせるにはイマイチだなと思っていたのだ。年齢的にも落ち着いたデザインのものを持ってもいいだろうと、フェイスの大きいシンプルな文字盤のものをチョイスした。気に入ってくれるといいのだけど。
ドキドキする私の前でラッピングを解き箱を空けた彼は、おお、と感嘆の声を上げる。

「かっこいいな。さんきゅ」

さっそくとばかりに腕に嵌めて掲げて見せる。彼は服装もシンプルなものが好みだから、よく似合っていた。ほっと一息ついたのもつかの間。箱を紙袋に仕舞おうとした彼が底に入っている紙に気がついて、再び私の鼓動は忙しなく動き始める。
彼の手が紙袋の中から取り出した紙を広げる。その紙の正体を知る瞬間を、見ていられなくてぎゅっと目を瞑った。時間にすれば、数秒ほどだろうか。空気の震える音が聞こえて、名前を呼ばれる。恐る恐る、閉ざしていた瞼を押し上げれば、目の前には彼はいなくて。いつの間に傍に来ていたのだろうか、横から力強く抱き締められた。

「お前、これ」
「いろいろ考えたんだよ。今年は何をあげようかなって」

異性と付き合ったのは彼が初めてだった。手を繋いだのも、キスをしたのも、体を重ねたのも、全部初めては彼とだった。私が傍にいるだけで嬉しいと言ってくれる彼に、自分があげられる一等のものはなんだろうと考えた時、浮かんだのがこれだった。

「私のこれからを、一にあげる」

だから、ねえ。その続きは言わせてもらえなかった。俺から言わせてくれ、と唇に指を当てられて、口にしようとした言葉は押し留められる。

「結婚しよう」
「うん」

再び強く抱き締められて、幸福さにゆるゆると視界が緩んでいく。一の誕生日なのに私が幸せになっちゃった、と溢せば、構いやしねえよと彼が言う。

「お前が幸せなら、俺も幸せだからな」



HappyBirthday Hajime Iwaizumi!!
190610執筆
190708掲載