どれだけの偶然を重ねた時、それは運命に変わるのだろう。



さん、もうすぐ誕生日でしょ」

菅原くんにそう話しかけられたのは放課後の掃除当番の時間だった。私たちの班は階段の担当で、校舎に階段は東側と西側、中央に3つある。班員は6人だったからちょうどいいと、じゃんけんでペアを組み分かれて掃除に取り掛かっていた。菅原くんは最上階から、私は3階から掃きながら下に降りていって最後に1階で掃ききったゴミをちりとりで集めているところだった。
どうして菅原くんが誕生日を知っているのだろうと私の顔から疑問を読み取ったのか、彼はああと頷いてから言葉を続ける。

「クラス替えして最初の自己紹介の時にさ、誕生日と血液型と趣味喋らされただろ?」
「よく覚えてるね」

私たちが所属する進学クラスはクラス替えがなく、2年のクラスがそのまま持ち上がる。3年になって一か月ほどが経った今、一年前のことはだいぶ記憶が薄い。

「同じ誕生日だったら印象に残るだろ」
「え、菅原くんも6月13日生まれなの?!」

「すごい偶然!」と驚いた声をあげる私に「だべー?運命感じちゃったもん」と嬉しげに笑う彼に運命って?と首を傾げる。

「新しいクラスでいいなって思った子の誕生日が一緒だったら運命感じるだろ?」

いたずらな笑みとともに告げられて、動揺する私を他所に「掃き終わったしみんなのとこ行くべー」と菅原くんは通常通りだ。
今思えば、それは彼の遠回しなアプローチだったのだろう。私はまんまとその言葉に揺さぶられて、その日から菅原君はただのクラスメイトから気になる存在に変わったのだから、それは功を奏したに違いなかった。







「なに笑ってんの」

シャンパングラスを掲げ、中に入った琥珀を揺らしながら頬を緩ませる私を見て向かいに座る彼が呆れたように笑う。
今夜は誕生日だからと少し奮発して、彼と二人でディナーに訪れていた。きちんとドレスとスーツを身に纏っておめかしをした2人をキャンドルの火が淡く照らしている。彼と誕生日が同じだと知った17歳のあの時から、こうして何度も一緒に誕生日を祝う未来をあの頃の私は想像できただろうか。

「孝支に初めて誕生日お祝いしてもらった時のこと思い出してた」
「恥ずかしいからやめろよー」

お酒のせいもあって耳も頬も赤く染めた彼はケラケラと恥ずかしげに笑う。
菅原君と誕生日が同じだと知ってから、私がそわそわと落ち着かない気持ちで誕生日を迎えたのはもちろんだけど、あの日はあんなにも余裕そうな顔をしていたのに、その日は菅原君も終始浮足立った様子で、その空気を纏ったまま迎えた放課後。ちょっといい?と緊張した面持ちで呼び出された私は菅原君から告白をされた。「俺と付き合って下さい」とストレートな言葉に頷いた後、菅原くんは事前に用意していたのだと言ってプレゼントをくれたけれど、彼から初めてもらった好きの言葉が私にとっては何よりのプレゼントだった。

「あの日も顔真っ赤だったよね」

アルコールで染まった赤が、想いを告げてくれた時の彼を思い出させて、懐かしさに頬が緩む。ゆらゆらとシャンパングラスを揺らしている私をじっと見つめていた孝支は手元のグラスを一息に煽った後、意を決したように居ずまいを正し、私の名前を呼ぶ。真剣な眼差しに私は手にしていたグラスをテーブルに置いた。

「俺と結婚してください」

あの日と同じようにただ頷くことしか出来ない私の頬を伝う涙をやさしく拭った彼の指が、左の手を取って環っかを嵌めてくれる。きらりと反射するきらめきに目を細めた。



人が同じ日に同じ場所で生まれる確率というのはどれくらいの数字になるのだろうか。同じ年に生まれ、同じ学校に通い、同じクラスになった男女がお互いを好きになって結ばれる確率はいったい。
誕生日が同じというただの偶然が、彼のおかげで運命に変わった。彼と付き合うようになって、誕生日がそれまで以上に特別な日になった。
そしてまた彼のおかげで、今日が特別で大切な一日に変わる。彼とたくさんの特別を重ねてきた私はもう、彼と共に生きていくことをやめられそうにない。



HappyBirthday Koshi Sugawara!!
170613執筆
180421掲載