デートに適した場所が少ない、というのは田舎あるあるだ。仙台周辺は都会だし、オシャレな店もたくさんあるが、主だった大学のキャンパスが市内にあちこちに点在しているせいか、顔見知りに遭遇する確率が高い。
付き合っているならまだしも、友達以上恋人未満な距離感の時に二人きりで出かけているところを知り合いに見られるのはどうにも決まり悪い。ファミレスではあるが、市内から少し離れた場所にある店にして正解だったと思う。自分の地元からも少し離れた場所なので、地元の友達に見られるということも少ない。
とは同じゼミの同期でそこそこ仲がいい。5限のゼミ終わり、夕食を共にしないかと彼女を食事に誘った。食事が終わった後も話が弾み、店内にだらだらと居座って何時間が経っただろうか。
ふぁ、と彼女が小さく欠伸をもらしたのを見て、テーブルの上に伏せて置いていたスマホに手を伸ばして時刻を確認すれば、あと数分で4時を回ろうかという時刻。訊ねられたので、彼女にも時間を教えてやれば、もう朝だね、と力ない笑みが返ってくる。

「そろそろ出るかー」
「だね。花巻、今日授業あるの?」
「2限から。は?」
「私3限から~」
「うわ、めっちゃ寝れるじゃん。いいな」

下らないやり取りも気になる子相手だと、それだけで楽しく思えるのだから恋愛ってのは恐ろしい。
会計を済ませて店の外に出ると、東の空はわずかに明度を上げ濃紺に変わり、夜が明け始めていた。

「なあ、ちょっと寄り道していい?」
「いいよ」

許可をもらったので、心置きなく車を目的地へ向かって走らせる。

「空明るくなってきたね~」
「だな」
「なんかワクワクしてきた」

寝ていないせいでテンションがおかしくなっているのか、は楽しげな笑い声をあげている。その笑顔の理由に、自分と一緒にいるから、というのも含まれていればいいな、なんてことを思いながらハンドルを切る。

「わ、海だ!」

数十分ほど車を走らせると、海岸線が見えてきた。

「私、宮城来てから海来るの初めて」
「マジか。じゃあ連れてきてよかったな」

道沿いに海岸に降りられて近くに駐車スペースも確保されている場所があり、車を停めて海岸へ降りていく。砂に足を取られている彼女に手を貸してやれば、ぎゅっと握られて手を繋いだまま、波打ち際まで歩く。波の音に耳を傾けながら、待つこと十数分。ゆっくりと太陽が姿を現し朝が訪れる。

「花巻、連れてきてくれてありがとうね」
「ドウイタシマシテ」

ぶらぶらと子どもがするように繋いだ手を揺らしながら、車まで戻ってくる。名残惜しく思いながら繋いでいた手を離した。運転席側は回り込みながら、ちらりと彼女の方に目を向ければ、掌をじっと見つめていて、同じように思ってくれてるのではないかと期待が胸に広がる。
それから、帰り道はさっきまでのハイテンションが嘘のように静かだった。早朝の時間帯は道も空いているので、が下宿しているアパートに到着するまで、さほど時間はかからなかった。車を降りた彼女はドアを閉めようとこちらに向き直ると、運転席の方へ身を乗り出してくる。

「…うちで寝ていく?」
「え、」
「ここから戻ることになるんでしょ。どうせ昼前にまた来るんだし、うちで寝て行った方が楽じゃない?」

彼女の言う通り、俺の家はここから来た道を戻ることになる。の家は大学に程近いので、彼女の申し出は願ってもないものだった。

「…いいの、家上がっても」
「いいよ花巻なら」

その言葉には、一体どういう意味が含まれているのか。真意を掘り下げたいが、一睡もしていない頭ではどう切り込めばいいかわからない。

「じゃあお言葉に甘えて。車、大学に置いてくるわ」
「うん、待ってる」

はにかんで告げられた言葉に、逸る胸を抑えながらアクセルを踏んだ。



190902