ばたばたと鞄を揺らして、夕暮れの街中を駆け抜ける。待ち合わせ場所で佇んでいた彼女は、俺が近づいてくるのに足音で気づいたのか、目が合うと表情をほころばせた。

「ごめん、待たせた」
「ううん、待ってないよ。大丈夫」

そんなに急がなくてよかったのに、と言う彼女だが、逸る気持ちを押さえられなかったのだ。誕生日をお祝いしてくれるというのだから。
本当ならばデートでも行きたいところだが、あいにく今日は一日部活だったのでこんな時間から会うことになった。
じゃあ行こっか、と差し出されたの手を取って歩き出す。向かうのは行きつけの中華料理店だ。誕生日だし晩ごはんごちそうするよ、何食べたい?と彼女から尋ねられた時に、その店に行くことをリクエストした。そのお店の麻婆豆腐は絶品で、前にその話をした時にがいつか行ってみたいなあと言っていたから。

「みんなから何もらったの?」
「いろいろ」

俺が手に提げている紙袋から溢れているプレゼントを覗き込んで彼女が訊ねる。サポーターに四文字熟語のTシャツ、麻婆豆腐の素やタオルなど、各々が思う贈り物を用意してくれた。持ちきれなくなることを見越していたのか、清水が大きな紙袋を用意してくれていて、プレゼントを入れたらパンパンになった。

「今日お家でご飯食べなくてよかったの?」
「だいじょーぶ。むしろなんかニヤニヤして送り出された」

彼女と晩ごはん食べてくるから、と家族に伝えたところ、非常に緩んだ笑顔を向けられたのを思い出して恥ずかしくなった。







「はー美味しかった〜!」
「ほんとおいしかったね〜」
「だべ〜?ごちそうさまでした」

食事を終えて、を家まで送るために歩き出す。流れるように自然に繋がれた手をブラブラと揺らしていると、ギュッと力を込められる。前に向けていた視線を彼女の方に向けると、目が合った。

「孝支くん、お誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」

0時になった瞬間にお祝いのメッセージを送ってくれていたが、やっぱり直接言ってもらえる嬉しさは格別だ。メッセージにはすぐ既読をつけてお礼を返信していたが、改めてお礼を口にする。

「お祝いのメッセージありがとうな」
「どういたしまして。返信、朝でもよかったのに。眠くなかった?」
「ワクワクして眠れなかったんだよ」
「ええ、そんな楽しみにするものでもないでしょ」

冗談だと思っているのかは笑っているが、大好きな彼女からのメッセージを楽しみに思わないわけないじゃないか。そのために、いつもなら部活がある前日は日付が変わる前に眠るのに、寝ないで待っていたのだから。
彼女と過ごす時間は楽しくて、いつだって笑みが止まらない。だから離れるのが名残惜しくて、歩調は知らず知らずのうちにゆっくりになっていく。

「…なあ、うち寄ってかない」
「えっ、でもお家の人いるんじゃ」
「うん。ケーキ用意してるしせっかくだし連れてきたらって」

ほら、とスマートフォンのメッセージアプリを見せる。内容に目を通して、少し迷う素振りを見せているに、もう一押し。

「もうちょっと、一緒にいたいんだけど」

ギュッと手を握って、顔を覗き込んで目を合わせて言えば、は顔を赤くして首肯する。

「やった」
「…孝支くんって、時々ずるいよね」
「そんなことないだろ〜」
「そんなことある」

まだ赤みの残る頬でそっぽを向く彼女に、好きな子相手だからずるい手でも使ってしまうのだ、と話せば怒ってしまうだろうか。でも今日だったら大丈夫かな。だって、誕生日の主役の言うことだ。きっと許してもらえるに違いない。



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