「一静くん、重いです」
「うん」
「いや、うんじゃなくて」

ベッドに寝転がって本を読んでいたら、徐に松川くんが背中からのしかかってきた。さすがに全体重をかけてはいないが、180を優に超す巨体は上半身だけでもかなりの重みがある。

「…もしかしてかまってほしかったり?」

返事はないものの、グリグリと後頭部に鼻先を埋めて擦り寄ってくるのが答えのようだ。

「もう少しで読み終わるからちょっと待ってほしいな」

私のお願いはお気に召さなかったらしく、不満の意を表すように大きな手がいたずらに体を這い回る。

「あっ、ちょっとどこ触ってるの!」

咎める声は聞こえていないかのように無視をして、服の裾から掌が入り込んでくる。休日だからと、カップ付きのインナーを着ているおかげで素肌への侵入は容易い。首筋や耳元に唇を寄せて煽られれば、感じてしまうのは仕方のないことだった。

「んっ、ちょ、やだっ」

与えられる刺激にぞわぞわとした快感が背筋を這い上がる。服の上から大きな手を掴んで制止すれば、ぴたりと動きが止まった。

「…イヤ?」
「いやじゃないけど、ダメ」

そういうことをするのがイヤなわけじゃない。だって、彼とのスキンシップは気持ちがよくて幸せだから。でも今はまだ日が高いし、せっかくの休日なのだ。そういうことだけをして時間を過ごすのはなんだかもったいない。少し不満げだったけど、私の言い分にわかったと、大人しく上から退いてくれた。

「邪魔しないからくっついててもいい?」
「うん、いいよ」

ベッドヘッドに背を預けた松川くんに腕を引かれて、彼を背もたれにして足の間に腰を下ろす。長い腕がお腹に回り、ゆるく抱きしめられる。肩口に寄せられた顔を振り仰いで、お礼の代わりに頬にキスを送った。

「続きは、夜にね」
「楽しみにしてる」

大好きな温もりに包まれながら、活字の世界に沈む。なんて贅沢な休日の過ごし方だろうかと、満足に浸った。



200905
ini SS再録本「ShortShort」より書き下ろしをWeb再録