「お前、友達いないの?」

俺の呆れた声に、おしぼりで手を拭っていたはきょとんとした顔をこちらに向ける。

「え、松川って友達じゃなかったっけ」
「そうじゃなくて、俺の他に友達いないのかって言ってんの」
「いるよ普通に。失礼だな」

じゃあなんで毎回俺ばかりを飲みに誘うのだ、と前々から思っていた疑問を口にすれば、おしぼりを畳みながらは唇を尖らせた。

「だって周りに日本酒好きな子いないんだもん。職場の人もお酒飲まない人多いしさあ」

お酒が好きな彼女は特に日本酒には目がなくて、うまい日本酒が飲める店を見つけては飲みに誘われることが多かった。

「俺、特別日本酒好きってわけじゃないけど」
「でも飲めるじゃん」
「岩泉も飲むだろ」
「既婚者はさすがに誘いづらい」

仲間内で一番酒に強いのは俺だ。次に強い岩泉は昨年結婚したばかりで、いくら付き合いが長く、恋愛感情なんてこれっぽっちもないとは言え二人で飲みに行くのは憚られるというの意見には納得がいく。
話している間に枡に収められたグラスが彼女の手元に届いた。店員が一升瓶を傾けて中身を注ぐのを、は目を輝かせてその様子を見守っている。同じように俺の前のグラスにもなみなみと酒が注がれる。そうっと枡を持ち上げた彼女に促され、同じように枡を手に取り、かんぱーいと軽くぶつけた。テーブルの上に枡を戻した後、グラスに口をつけ中身を啜ると、はへらりと頬を緩ませた。

「松川やばいこれ、すごくおいしい!」
「はいはい」

早く飲めと急かされてグラスを傾ける。鼻腔にふわりと香りが広がった後、喉がきゅっと締まり、胃がじんわりと熱くなる。たしかにうまい酒だ。強いていうならもう少し辛口の方が好みだけれど。

「ね、おいしいでしょ」
「だな」

お酒を飲むとすぐ赤くなる彼女の頬はすでに赤みがさしていて、表情は緩みきっている。突き出しをつまみながら、グラスを傾けてもう一口。ケチをつけたが、ニコニコと楽しげな彼女の様子を眺めるのは実は嫌いではない。来週予定されている出張で、彼女のためにその土地の地酒を買って帰ってくるのだろうなと、近い未来を予想しながらグラスを煽った。


191009