出張先で購入した地酒をネタにを宅飲みに誘った。二つ返事で彼女が了承するのは予想通り。しかし、彼女がそのまま泊めてほしいと申し出てきたのは予想外だった。

「あ~さいっこ~」

日本酒の入ったグラスを傾け、赤ら顔でふにゃりと笑みを浮かべるはすっぴんにジャージ姿という非常に色気のない姿ですっかり寛いでいた。学生の頃は仲間内で集まって宅飲みなんてのは頻繁だったが、社会人になった今は片付けの手間だったり、予定が合わなかったりで、家で誰かと飲むこと自体が久しい。ましてや彼女と二人きりは初めてのことだった。
あの頃より年齢を重ねたが、化粧を落とすとあどけなく見える彼女は、お酒のせいで顔だけでなく首まで真っ赤だ。

「みて~おなかまでまっかっか!」
「…何してんのお前」

徐に服を捲り上げ腹部を晒すと、顔や首元と同じく赤らんでいる腹を見て、子どものような無邪気に笑っている。惜しみなく晒された薄っぺらで細っこいウエストに動揺し、慌てて服の裾に手を伸ばして仕舞わせる。結構勢いよく裾を捲っていたから、少し下着が見えていた。勘弁してくれ。ただでさえ酒で顔が赤く、酔いが回っているせいで表情だけでなく、ふにゃふにゃと姿勢を保つこともせず、ぐでんぐでんになっているのだ。いくら付き合いが長いとはいえ、情事の最中を思わせるような顔で、無防備な姿を見せられて平静でいられるほど、俺はできた男ではない。これ以上はいけないと、彼女の手からグラスを取り上げた。

「かえしてよー」
「だーめ。お前飲み過ぎ。もう寝るぞ」

ふて腐れたように唇を尖らせていたが、俺がテーブルの上を片付け始めたのを見て諦めたらしい。緩慢な動作で、身を預けていたソファから体を起こした。ふらふらと覚束ない足取りで手伝おうとするのを制して、歯を磨いて来いと洗面所へ追いやる。流しへグラスや皿などを置き、洗い物は明日でいいかと水だけ張っておいた。洗面所へ向かえば、歯磨きを終えたらしい、彼女は入れ違いにトイレに消える。

「…寝るとこ間違ってんぞ」
「ん~きょうはここでねる~~」

寝る支度を整え寝室に入れば、床に敷いている来客用の布団を無視して彼女は俺のベッドに寝転んでいた。家についてすぐ荷物を置きに寝室を訪れた際に、寝床の確認をした彼女にベッドを使ってもらう予定であることを告げれば、布団でいいと固辞していたのはなんだったのか。酔っぱらいを相手にしても無駄だと諦めて布団に体を横たえようとすれば、腕を引いてベッドに連れ込まれた。

「おい、!」
「は~まつかわあったかい~」

俺からすれば、酒で火照っている彼女の方が暖かい。胸元に擦り寄ってくる体は熱くて柔らかくて、年甲斐もなくドキドキと鼓動が速さを増す。
「はは、ばっくんばっくんいってる」
俺の心音のことを指しているのかとどきりとしたが、どうやらアルコールで上がっている自身の脈拍のことを言っているらしい。もうさっさと寝てくれ、と寝かしつけるように髪を撫でれば、気持ちよさげに頬を緩める。勘弁してくれ。酔わない性質だが、アルコールを摂取しているから情欲の沸点は平時より低くなっている。おかしな気を起こしてしまう前に眠りに落ちてしまおうと瞼を閉じた。



200120