「どうだったの、結婚式」
「すっっごい、いいお式だった」

噛みしめるように言い捨ててビールのグラスを煽る。今日は朝から大学時代の友人の結婚式に参加してきた。披露宴、二次会の会食でお腹は満たされているし、アルコールも口にしたのに、なぜか無性にお酒が飲みたくなって、でもこんな日の夜に一人で飲む気にはなれなくて松川を呼び出した。突然の呼び出しにも関わらず、文句も言わずすぐ来てくれた彼はこの展開を予想していたのかもしれない。

「朝からずっとみんな笑顔でさ、おめでとうって何度も言って、手紙読んだりムービー見て泣いたりして、これが幸せなんだろうなって」

目に見えないはずの幸福がこれでもかと詰まった空間にずっといたせいか、会がお開きになり、いざ帰るとなった時、急に一人になりたくないという気持ちに襲われた。ハレの日の場にふさわしい煌びやかな格好をした自分が虚しく思えて来て足取りは重くなった。

「すごく喜ばしいことのはずなのに、心のどこかで祝福してない私がいるの。…きっと妬んでるんだと思う」
「羨ましいんならも幸せになればいいんじゃないの」
「…どうやって」

私に今恋人はいない。好きな人もいない。誰かに好きになってもらいたい、誰かを好きになりたいと思いながら、どうすればいいのかわからずに途方に暮れているというのに、簡単に言ってのける松川に叫びだしたい気持ちを押さえて問いかける。私の問いに答えずに、彼は質問を投げ返してくる。

「今日俺のこと呼び出したのはなんで?」
「なんでって…そんなの大した理由じゃ、」
「本当に?」

じっと目を見つめて問いかけられて、たじろぐ。
仕事でつらいことがあった時、体調を崩して心細い時、今日みたいに訳もなく一人でいたくない時、会いたいと頭に浮かぶのは、いつだって松川の顔だった。その意味を本当はわかっている。

「もうわかってるんじゃないの」

私の頭の中を見透かしたような言葉に、だって、と言いかけて口を噤んだのを彼は許さなかった。

「…松川は、私なんかじゃだめでしょ」
「だめって何が?が頼ったり甘えたりしてくれるの、俺は嬉しいよ」

柔らかな眼差しを向けられて、頑なだった心が綻んでいく。おずおずと伸ばした手は大きな掌に捕えられた。

「幸せになろうよ、一緒に」

コクリと頷いて手を握り返す。胸に広がるあたたかな感情は、幸せに違いなかった。



190301
HappyBirthday Issei Matsukawa!!