「松川くんそれやめて〜」
「んー」

私が窘めても彼は生返事を寄越すだけで、ふにふにと下腹部に触れている。夜寝る時、松川くんはいつも背後から覆いかぶさるように私を腕の中に納め、足をすっぽりと自分の股の内に収めて眠る。体の大きな彼にそうされると、夜中に寝返りを打ちたくても身動きがまったく取れなくなる。やめてほしいと何度かお願いをしているが、松川くんがそれを聞き入れてくれたことは一度としてない。ぐりぐりと私の頭頂部に鼻先を押しつけて、髪の匂いを嗅ぎながら柔らかな腹の感触を楽しんでいる彼はどこまでも自分のペースで、私はいつもされるがままだ。背中から伝わる体温が暖かいからきっとその内眠りに落ちてしまうのだろう。しかたがないなあと愛しいため息をつきながら、大きな腕に体をすり寄せた。





朝目覚めてみると、案の定身動きの取れなかった体は節々が痛くて足が痺れていた。さすがにもういいだろうと、体に回された腕をぺちぺちと叩く。

「松川くん、足放してー」
「…やだ…」

まだ眠りの淵にいるらしい彼は小さく唸りながらさらに強く体を抱き込んでくる。名前を呼んでもむにゃむにゃと不明瞭な言葉が返ってくるだけだ。こうなったらしかたがない。

「一静くんのお顔見たいんだけどなあ」

普段照れ臭くてあまり呼べない名前を呼べば、くるりと体をひっくり返されて、今度は正面からギュッと抱きしめられる。

「こういう時だけずるい…」
「松川くん硬いイタイ」
「おはよ、ちゃん」
「…おはよう」

私の抗議なんて聞いてやしない松川くんは朝の挨拶とともに唇を合わせてくる。ズルいのはどっちだ。

「もう起きる?」
「んー…もうちょっとこうしてたい」

私を胸に抱き寄せて、トロトロとした声で返事をする彼はきっとそのうちまた眠ってしまうに違いない。
今日は天気が良いからお洗濯をして、久しぶりに松川くんとお休みが被った休日だからランチがてらデートに行きたい、なんて考えていたのに、予定通りにはいかないようだ。しかたないなあと許してしまう私はどこまでも彼に甘い。普段しっかりしている松川くんが取り繕うことなく、私の前ではありのままの姿を見せてくれるのだ。こんなの許すほかない。だって私は松川くんのことが大好きなのだから。



210301
HappyBirthday Issei Matsukawa!!