定時まであと1時間を切ったくらいの時分から微かに痛み出した頭痛は退社する頃には、じくじくと響くような痛みに変わっていた。もう帰るだけだし、と頭痛薬を飲むことはしなかったのだが、帰りの電車の中で痛みはさらに増し、目眩と吐き気まで催す始末。気力を振り絞ってなんとか自宅に帰り着いた頃には疲労困憊で、ソファに倒れこむように腰を下ろし頭を抱えた。
いたい、いたい、いたい!!
叫び出したいくらいの痛みに、じわりと涙が浮かんでくる。薬を飲みたいけど立ち上がることすら億劫で、どうしたらいいのかと考えることも痛みに邪魔されてしんどい。じっとしても痛みが引く気配はないし、何か行動しなければと思うのだが、痛みに苛まれている頭では考えが浮かばない。二進も三進もいかない状況のまま、どれくらいの時間が経ったのだろうか。

「ただいま」

玄関から解錠の音がして、月島さんの帰宅を知らせる。今日は残業じゃなかったんだな、と思いながらも、おかえりと言葉を返す余裕も今の私にはない。電気がついているのに、反応のない私に様子がおかしいと気づいたのか、ソファの反対側から月島さんの顔が覗く。

、どうした?」
「あたまいたい…」
「あーほら泣くな泣くな」

私の濡れた声に慌てたようにソファを回り込んだ月島さんは、腕を引いて抱きしめて宥めるように背を叩いてくれる。

「薬飲んだのか?」
「くうふくだから、おくすりのめない…」
「先メシ食うか?」
「あたまいたくてごはんどころじゃない…」
「そうか、しんどいな」

ぐずる私の背をポンポンと、柔らかな手つきで叩き続けてくれている月島さんの首に縋り付いて深く息を吸えば、柔軟剤と月島さんのにおいがして、痛みは変わらないものの、気持ちが少し落ち着く。

「少し寝るか?」
「おけしょうまだおとしてない…」
「ちょっとくらい平気だろ」

だいじょうぶじゃない、と反論する元気もなくて、私を抱えて立ち上がる月島さんの首におとなしく捕まる。ベッドに私を横たえると布団をかけてから、ちょっと待ってろ、と声をかけて月島さんは行ってしまう。途端に痛みが舞い戻ってきた気がして、きつく瞼を閉ざす。体を丸めて痛みに耐えていると、足音が聞こえてきて布団が捲られた。隣に潜り込んできた月島さんの胸にすり寄れば、いつも彼が寝巻きにしているTシャツが顔に当たる。着替えに行ってたのか。また優しい手つきで背中を叩いてくれる掌のあたたかさに誘われて、眠りに落ちた。



200627