ソファに座っていると、隣にやってきた月島さんが妙にソワソワしている。こちらの様子をチラチラと窺ってタイミングを計っているようだ。

「なあ、いいか」
「何がですか?」

問いかけの主語をなんとなく察していたものの、あえて問い返せば、視線を逸らして口ごもる。
月島さんは我慢強い性格のせいか、したいことがあっても言わないことが多い。そのおかげで、嫉妬や性欲を溜め込んでは爆発させるのが常で、限界まで蓄積された欲を一気にぶつけられるこちらとしてはたまったものではなかった。散々に抱き潰されて、声はガラガラ、体の節々が痛んで起き上がることもままならない満身創痍の朝を何度迎えたことだろうか。
溜め込むくらいならこまめに発散をするように言っても、長年染み付いた性格というのは一朝一夕に治るものでもない。
だから月島さんをトレーニングすることにしたのだ。

「したいことがあるなら、ちゃんと口にしないとわからないですよ」

もごもごと口を動かすばかりで、一向に口にする様子のない月島さんに助け舟を出せば、踏ん切りがついたのかそっと口を開く。

「…キス、していいか」
「いいですよ」

はいどうぞ、と顔を寄せて目を閉じれば、肩をそっと掴まれてかさついた唇が触れる。柔らかさを楽しむように、ふにふにと何度か押し当てられた後、満足したように離れていく。しかし、目を開くと月島さんはまだ何か言いたそうな顔をしていた。

「どうしました?」
「…今日、風呂一緒に入っていいか」

入りたい、ではなく、していいか、と許可を得るのは相変わらずだが、一度踏ん切りがつけばしたいことを口にできるようになっただけ成長がみえる。

「いいですよ。お風呂入る準備しますね」
「もう用意してある」

よっぽど一緒にお風呂に入りたかったらしい。手を引かれて風呂場に向かえば、洗面所にはもう着替えやバスタオルがバッチリ用意されていたので、思わず笑うと月島さんは決まり悪そうに頭をかいた。



髪と体を洗い終えて、月島さんに背中を預けるようにして湯船に浸かる。私のお腹の前で組まれている月島さんの手を解いて、指を握ったり掌を揉んだりして弄んでいれば、月島さんが話しかけてくる。

「お前、ちょっと俺のこと甘やかしすぎじゃないか」
「好きな人甘やかさなくてどうするってんですか」

私の主張に月島さんはそうか、と小さく呟いたきり黙ってしまう。これはたぶん戸惑っているな。月島さんは甘え下手だし、甘やかされることにも慣れていない。したいことを言えと強いているのだから、月島さんが要望を口にしたら必ず応えてあげると決めているのだが、月島さん的にはわがままを言っているのではないかと気にしているらしい。

「前も言いましたけど、本当に無理な時はちゃんと言いますから」

要求が通るかどうかは別として、したいこと、してほしいことがある時はまず口にしてみる。応えられない時は対話で妥協点を探して折り合いをつけるのは、コミュニケーションの基本だと思うのだ。仕事だとその辺りの交渉や駆け引きなんかは上手なくせに、プライベートではそのスキルは発揮されないらしい。つくづく不器用な人だ。そこもまた月島さんの好ましいところなのだけど。
背後でフゥと息を吐く音がした後、ギュッと力が籠って腰を引かれる。肩口に顔を寄せた月島さんは、秘密を打ち明ける時のような小さな声で耳元で囁く。

「この後、風呂上がったら…シていいか」

腰にはゆるく勃ち上がったものが当たっている。ここはシたいって言ってほしかったなぁなんて思いながら、首を捻って月島さんの顔を覗き込む。遠慮がちな言葉とは正反対のギラギラした瞳と目が合って、いいよと承諾の代わりに唇に齧り付いた。



200318