外に出た途端、吹き付けてきた冷たい風に身を縮こませる。寒い!と悲鳴を上げて、隣を歩いている月島さんにくっついて暖を取れば、非難の声が飛んでくる。

「おい、」
「こんな時間ですし大丈夫ですよ。それにうちの会社でこの路線使ってる人いませんから」

私たちが付き合っていることは、会社で公にしていない。そのため、誰かに見られることを気にして、普段外では手を繋ぐことすらない。
職場に最後まで残っていたのは私たちだけで、残業終わりのこの時間、会社の最寄駅に向かう道すがら人はまばらだ。夜だし遠目から見てもわかんないですよ、と付け加えれば、月島さんははあとため息をついた後、凍えた手を絡め取ってポケットにお招きしてくれた。ニッコリと笑みを浮かべてさらに密着するように擦り寄る。

「はぁ〜月島さんあったかい。好き」
「…鍛えてるからな」

筋肉ミチミチな月島さんは体温が高くて冬は湯たんぽとして重宝する。夏場は逆に暑くて大変そうだけど。

「頭寒くないんです?」
「寒くない。お前人をハゲみたいに…」
「坊主も似たようなもんでしょ」

髪が短いから寒いのではと心配してあげたのにと、頭をショリショリと撫でればやっぱりちょっと冷えている。早く家に帰ってお風呂入りたいですね、と言えば、そうだなと同意が返ってくる。やっぱり寒いんじゃないか。

「今日は私も湯船浸かろうかな。一緒に入ります?」
「入る」
「あは、即答」

月島さんは熱いお湯にじっくり浸かるのが好きで、我が家のお風呂の設定温度は高めだ。のぼせやすい私は普段シャワーでサッと済ませることが多いのだが、今日は寒いしちゃんと体を温めた方がいいだろう。外では手も繋いでくれない月島さんだけど、スキンシップは好きな方らしく、一緒にお風呂に入ってあげると大層喜ぶのだ。

「のぼせちゃうから、変なことしたらだめですよ」
「くっついて風呂入るのは、変なことじゃないだろ」

うちのお風呂はさして広いわけじゃないから、湯船に浸かるには密着しないといけない。不可抗力で触れてしまうのをいいことに、月島さんは、二の腕を揉んだり、下腹のお肉をつまんだりとちょっかいを掛けてくる。じゃれ合っているうちにそういう気分になるに違いないくせに、ツンとすました顔をしているのが可笑しくて笑ってしまう。
一緒にお風呂に入ることが楽しみなのか、思惑がばれているのが恥ずかしくて誤魔化したいのか。早く帰るぞ、と急かし気味に月島さんに手を引かれて、冷たい風に身を竦めながら歩調を早めた。



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