「珍しいな、が来てるの」
「…そうですね。たまには」

珍しいのはあなたですよ、と突っこみたいのを堪えて曖昧に笑って見せる。実際、私は会社全体で催される大規模な飲み会には参加しないことが多いので、月島主任の言うことも一理あるからだ。
今日は繁忙期が終わり、ひと段落ついた慰労会を兼ねての飲み会だった。参加者は同じチームのメンバーだけだと聞いていたのに、どうして月島主任がいるのか。いや、主任は今回のプロジェクトの責任者でチーム全体を取り纏める立場だ。まったく無関係ではない。でも管理職の人はこうした実働メンバーの打ち上げ的な飲み会には参加しないことが多いのだ。ましてや月島主任と言えば、ワーカーホリックで有名で、社内でも一、二を争うほど残業の多い人である。忘年会や新年会等、上の人が参加するような大規模な飲み会にしか顔を出さない(出せない)はずなのに。

「結構いけるクチか?」
「はいっ、あ、いえ!」
「どっちだ」

手酌でお酒を注ごうとしていたら、徳利を奪い月島主任が注いでくれる。
日本酒は好きだが、お酒自体はさほど強くはない。酒量は体調にも左右される。でもたまに飲みたくなるのだ。ちびちびお猪口を傾けている私をみて、ふーん、と気のない返事を寄越して、主任はぐい、と生ビールのジョッキを傾ける。

「飲み放題で出てくるのってうまくないだろ」
「まあ、そうですね。でも私、そこまで味の良しあしわかるわけじゃないので」
「本当にうまい日本酒はな、飲んだらわかるぞ」

聞けば主任は佐渡の生まれなのだそうだ。新潟と言えば、米所でなおかつ日本酒の名産地だ。主任がお酒に強いのも、日本酒に詳しいのも納得が行く。嬉しそうに旨い酒について語っている主任はなんだかかわいい。一緒に飲みに行ったらさぞかし楽しいんだろうな。

「行くか」
「えっ、」
「うまい日本酒が飲める店知ってるんだ。今度行かないか」

思わず口に出してしまっていたのかと思ったが、そうではないようで。頭の中で考えていたことを見透かされたようなお誘いに心臓が鼓動を速める。

「うまいの飲ませてやるよ」
「…じゃあ、お願いします」

月島主任の勢いに押されて小さく頷けば、満足げな笑みが返って来る。強面な上に普段厳しい主任の珍しい表情にどぎまぎしてしまって、いつもより酔いが回りそうだった。



190816 / twitterより再掲