「宇佐美くんって、タバコ吸うんだね」

初めてキスをした後口を開いた私の第一声に、宇佐美くんはポカンと間抜けな顔をした。

「…他に何か言うことないの」
「結構吸うの?ぜんぜん気づかなかった」

続く私の返答に、先ほどまでの柔らかな雰囲気が一変し、スンっと彼の顔から表情が消える。くるりと踵を返し、スタスタと歩き出してしまう背中を慌てて追いかける。

「待って待って!じょーだん!冗談だってば」

相変わらず無表情のままだが、歩調を緩めてくれたのでほっと息をつく。隣に並んだ彼の横顔は、すこしばかり拗ねているように見えた。
宇佐美くんがタバコを吸うことは、付き合う前から知っていた。喫煙所にいるところをよく見かけたから。でも、気を遣ってくれているのか、私がいるところでは彼は決してタバコを吸うことはなかった。デートの時も、途中で吸いに行くことはなくて、だから禁煙してるのかな、なんて思っていたのだ。

「ちょっとはずかしくてね、茶化しちゃった」

ずっと大好きだった彼と初めてキスをして、嬉しさと恥ずかしさで、冗談でも口にしないとどうにかなってしまいそうだったのだ。ごめんね、と謝罪の言葉を口にして、そっと伺うように顔を覗き込めば、ハァアアと、盛大なため息をお見舞いされる。

ちゃんさぁ…」
「えっ、なに?やっぱり怒ってる?」
「怒ってない。行くよ」

さっと掌を掬われて、手を引かれ歩き出す。さらりと何気なく絡められた指にまた羞恥が襲ってくるが、それ以上に嬉しさが勝って、大きな手をぎゅっと強く握り返した。



190907 / twitterより再掲