シリンダーに差し込んだ鍵を静かに捻ったつもりが、ガチャン!と思いの外大きな音がして、びくりと肩が跳ねる。音を立てないように注意を払ってドアを開いて窺った室内はやはり暗い。物音を立てないように気を付けながらリビングの奥にある和室を覗けば、布団の上に大の字になった月島さんがいびきをかいて眠っている。久方ぶりに見るその顔は目の下に大きな隈をこさえており、顔も少し痩せて見える。
最近忙しそうだったもんな。襖をそっと閉めて、よしやるぞと腕まくりをして、脱衣所で山積みになっている洋服を洗濯機に放り込んでいく。台所の流しに溜まっている食器を洗い、ついでに流しも軽く掃除する。洗面所で洗面台周りを掃除していれば、洗濯機がピーピーと音を立てて終わりを告げる。洗い上がった洗濯物を干し終えた後、お風呂掃除を終えてリビングへ戻りソファに腰を下ろし一息ついた頃には、小一時間ほどが経っていた。
月島さんとはお昼から会う約束をしていたから、そろそろ起きてくるだろうか、と寝室に顔を出す。枕元にある彼のスマホを取り、指を借りてロックを外せば、しっかりとアラームがセットされている。それを解除して彼の隣に寝転んで大きく広げられた腋の下に頭を寄せ、ちょっとだけ、と目を閉じた。





腕の下になにかがある。寝起きでぼんやりとした頭のまま目を向けて飛びのいた。すやすやと心地よさそうな寝息を立てて彼女が眠っている。合鍵を渡しているし、うちに来ようと思えばいつでも来れるのだが、彼女と会うのはお昼からのはずだった。まさか寝坊してしまったのか、と壁にかかった時計を見れば、時刻は午前を示している。
ひとまず顔を洗おうと寝室を後にして洗面所へ向かえば、山積みになっていたはずの洗濯物の山がなくなっている。台所もしっかり片付いており、もしかして、と覗いた風呂場もすっかりきれいになっていた。休みなのにわざわざうちに来て家事を片付けてくれたらしい。寝室を覗けば、彼女がゆっくりと身を起こしているところだった。

、起きたか。おはよう」
「おはよー…」

まだ眠いのか、いつもは敬語を崩さない彼女が舌足らずに挨拶を返す。こちらを見上げる顔はぽやっとしていて、まだ眠そうだ。

「片付けてくれたんだな。助かった、ありがとう」
「どういたしまして」

側に寄って腰を下ろせば、すかさず膝に乗り上げてきた彼女が抱きついてくるのを受け止める。

「最近忙しそうだったからゆっくりしてほしくて。それに月島さんに会えるの久しぶりだし、心置きなくイチャイチャしたかったんです」

好きな女にはにかみながらそんなことを言われて、勃たない男がいるだろうか。いや、いない。ただでさえ忙しくてご無沙汰だったのだ。湧き上がる衝動のままに彼女を布団に押し倒せば、ポカンと間抜けな顔がこちらを見上げる。

「…嫌か」
「イヤじゃないですけど…今はだめです」
「なんでだ」
「お布団干したいから」

お腹空いたし、ご飯も食べたいです。お買い物行って、ご飯食べて、夜ふかふかのお布団でしましょ。ね?
夜までの予定をしっかりと立てているらしい彼女に白旗を上げる。上から退いて彼女を引っ張り起こせば、そのままするりと腕が絡んでくる。せっかく彼女がいろいろと気を利かせてくれたのだ。今日は思う存分彼女との時間を過ごそうと思う。
寝室を出るついでにと、敷布団を抱えれば、掛け布団を持った彼女が後からついてくる。両手が塞がっているのをいいことに、後ろを振り返ってがら空きの唇を奪った。



190818 / twitterより再掲